決算期は企業にとって大切な節目であると同時に、株主への説明責任を果たす時期でもあります。決算期を節目として企業の財政状態を正しく反映することで、経営の透明化につながります。
しかしながら、決算期にはやるべき業務が多く、大企業はもちろんのこと中小企業であっても膨大な作業になるため、「何から手をつければいいのか」と戸惑う方が多いかもしれません。
そこで本記事では、決算期の定義から変更手続きまでを詳しく解説し、決算業務をスムーズに進めるためのポイントを御紹介します。
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決算期とは法人にとって必須の単位!定義と必要な業務を紹介
決算期は期間中の収支バランスを取りまとめ、経営状態を把握する時期を指す言葉です。企業はこの期間を通じて年間の経営成果を集計し、財務状況を明らかにします。
決算期に財務報告書を作成し、利益や損失・資産状況を明示することで、利害関係者や税務当局に対して透明性の確保が可能です。
日本では多くの企業が決算期を3月や12月に設定していますが、これは年度をまたぐタイミングで企業の財務状況を一度整理でき、行政や税務のサイクルとも整合性が取りやすい点が背景にあります。
決算期に必要な業務
決算業務は主に以下の対応を実施します。
- 決算残高の確定
- 「勘定科目内訳明細書」の作成
- 税金の計算
- 決算書の作成
まずはそれぞれの勘定科目の残高を帳簿からまとめ、決算時点での正確な残高を確定します。帳簿から残高を確定させておくことで、「勘定科目内訳明細書」の作成が可能です。
決算残高が確定したら、課税される税額を計算します。決算残高に誤りがあれば税額にも誤差が生じるため、正確な決算残高の把握が大切です。
決算には、日々の取引で記録された収支を決算書の形でまとめる役割があり、決算書の信頼性担保にはミスのない残高確定が求められます。
残高確定の主な確認項目は以下の通りです。
1.現金および小口現金:実際に手元にある金庫などの現金を確認する 2.借入金:金融機関から「決算日時点の残高証明書」を取り寄せ、正確な残高を確認する 3.買掛金および未払金:決算時に経費として計上されているが、まだ支払が完了していない項目を集計し、未払い額を確認する 4.在庫商品や材料:棚卸作業を行い、実際の在庫数量を算出して残高を確認する 5.固定資産:年度内に新たに取得、または処分・売却した資産を確認し、減価償却費を計算して帳簿上の残高を正確にする |
正確な決算書作成は、企業としての信頼性向上にも寄与します。
税率計算の基準
税率計算は、消費税や法人税・法人住民税、法人事業税などの計算を行います。基本的な計算方法は以下の表の通りです。
▼税率計算の方法
税金の種類(納付税額) | 計算方法 |
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消費税 | 売上にかかる消費税(課税期間の売上高×10%または軽減税率8%)−仕入れにかかる消費税(課税期間の仕入高×10%または軽減税率8%) |
法人税 | 課税所得×法人税の税率 |
法人住民税 | 法人税に基づく税額(法人税×住民税率)+均等割 |
法人事業税 | 課税所得×法人事業税の税率 |
その他の決算期に必要な業務として、請求書の発行や貸借対照表・損益計算書の作成が挙げられます。
書類 | 概要 |
---|---|
請求書 | 取引先に対する代金請求を行うための書類 |
貸借対照表 | 企業の財務状況をある時点で示す報告書で、企業が保有する資産や負債・純資産をまとめ、企業の財政状態を明確にする |
損益計算書 | 一定期間(通常は1年間)における企業の収益(売上)と費用を記録し、利益または損失を示す経営成績の報告書 |
決算期の基礎知識
法人の決算期は自由に決められ、設立時に決算期を設定し、事業の状況や税務処理のタイミングを考慮しながら変更可能です。企業にとっては、キャッシュフローや経営計画に合わせて適切な時期に決算を行える利点があります。
個人事業主の場合、所得税の申告時期が決まっているため、事業年度の終わりは必然的に12月のみです。
日本の企業では、経営状況を定期的に確認するため、四半期ごとに決算期を設けることが一般的です。決算期を3ヶ月単位で区切ることで企業の財政状態をより正確に把握し、決算書の形で把握できます。6月や9月、12月に決算を設定している企業は、事業のピークや資金の流れを考慮して決算期を選んでいます。
一方で、日本全体で見ると慣例的に「3月決算・4月年度スタート」の形が主流です。
決算期を決める基準
決算期の設定は、企業の運営や税務処理に大きな影響を与えます。事業のピーク時や資金繰りの状況を考慮しながら、最適なタイミングを選ぶことが大切です。
ここでは、決算期を選定する際のポイントや注意すべき点について詳しく説明します。
売上を基準にする
決算期の設定は売上を基準にするのが一般的です。売上の多い繁忙期に決算期を設定しないことで、利益を次年度まで分散でき、損益のバランスを調整できます。
特に、繁忙期と決算業務が重なった場合、貴重な人的リソースが必要以上に割かれてしまいます。反対に、あえて繁忙期に決算期を設定することで売上が集中するため、収益をより多く計上できるでしょう。
このように、売上と繁忙期の関係を見て決算期を調整することで業務量と損益バランスを正しく把握可能です。
消費税の免除期間を基準にする
消費税の免除期間は、決算期を設定するうえで重要です。
法人を設立する際、資本金が1,000万円未満で、大きな法人の子会社でなければ、設立後の最初の2期(1期目と2期目)は消費税が免除されます。
なお、法人の規模の基準は主に資本金、従業員の人数です。資本金が5,000万円以上の事業所が「大規模な法人」として位置づけられています。
消費税の課税事業者として見なされるかどうかは、基準期間(前々年度)や特定期間(前年度の一定期間)の売上高が1,000万円を超えるかで決まるため、やや複雑です。
例えば、1期目が8ヶ月以上ある場合、設立後の最初の6ヶ月間で売上が1,000万円を超えると、2期目からは課税事業者になります。一方、1期目が7ヶ月半の場合、売上が1,000万円に届かないため、2期目も免税が継続できます。
さらに、1期目が7ヶ月以下であれば、特定期間が適用されないため、売上高にかかわらず2期目も免税判定になります。消費税の免税をできるだけ長くしたい場合は、1期目を7ヶ月以内に設定するのが有利です。しかし、売上によっては課税対象となる可能性もあります。
納税のタイミングを考慮する
決算期を決める際には、納税のタイミングを考慮しましょう。
税金の納付が集中する時期に決算期を設定すると、企業のキャッシュフローに負担がかかる可能性があります。
固定資産税や都市計画税は2月28日、4月30日・7月31日・12月31日のように年に複数回に分けて支払うのが原則です。
税金の支払いが発生する時期に決算期を設定してしまうと、税金と決算に関わる費用が重なります。ただ、結果的に資金繰りに影響を与える恐れがあるため、資金繰りが特に厳しい中小の法人は納税が重ならないよう、決算期の調整が必要です。
そのため、納税スケジュールを見直し、余裕をもって決算期を設定することで資金繰りが調整できます。
納税のタイミングを考慮し、資金繰りを円滑にすることで財務負担を軽減しましょう。
会社設立日との関係を見て調整する
決算期を決める際は、会社設立日との関係を考慮することがおすすめです。なぜなら、設立から1年未満の時期に決算期を設定してしまうと売上が少なく、納税額だけが多い時期が生じてしまうからです。
また、決算期が1年未満であっても納税期間は変わらないことも背景にあります。例えば、設立から1年後の月末を決算期として設定することで、初年度の事業運営に集中できる時間を確保できます。
ある程度企業の活動が安定した時期に決算を行うことで、決算業務の効率化が可能です。
設立初年度の負担を軽減し、業務に集中できる環境を整えるためにも、会社設立日との関係を見て決算期を調整しましょう。
決算期の変更方法
決算期を変更するには、いくつかの手続きが必要です。
ここでは、決算期の変更を円滑に進めるために必要な具体的な手続きや注意すべきポイントについて詳しく解説します。
決算期変更に必要な手続きは3つ
決算期変更の主な手続きは以下の通りです。
1.株主総会の開催
決算期の変更を行うために株主総会を開き、株主の3分の2以上の賛成を得なければなりません。小規模な企業では、議事録の作成だけで手続きを完了できる場合もあります。
2.定款の修正
決算期は通常、会社の定款に定められているため、変更する際には定款を修正する手続きが必要です。修正により、法的に変更が確定します。
3.税務署への異動届と議事録の提出
決算期を変更した後には、税務署に「異動届出書」を提出する必要があります。提出の際には、株主総会で作成した議事録のコピーも添付し、税務手続きが適切に進行するよう報告しましょう。
以上の手続きを着実に行うことで、法的および税務的にも正式に決算期の変更が承認され、スムーズに進行します。
決算期の変更には期限がある
決算期を変更する際には、手続きの期限に注意が必要です。具体的な提出期限は厳密には定められていませんが、変更後の納税月末までに届出を行うことが慣例として定着しています。
例えば、決算期を3月から11月に変更する場合、株主総会の特別決議は11月30日までに完了させることが必要です。変更届は、2ヶ月後の翌年1月31日までに税務署へ提出する必要があります。これにより、決算期の変更が正式に反映され、納税手続きも適切に処理されます。
決算期を変更する際は、株主総会での決議と税務署への届出を確実に期限内に行うことが重要です。
決算期変更のメリット
決算期変更には以下のようなメリットがあります。
- 節税につながる
- 資金繰りの調整が可能
- 役員報酬の見直しのきっかけになる
節税につながる
決算期を変更することで、節税効果が期待できます。
例えば利益が多い月を翌年度に回すことにより課税される利益を分散させれば、税負担の軽減が可能です。
法人税は原則として、1年間の利益に基づいて課税されます。そのため、特定の月に集中した利益を複数の年度に分けることができ、結果的にその年度ごとの課税額を抑えることが可能です。
このように、決算期の変更を戦略的に行うことで節税効果を受け、財政の長期的な健全化が行えます。
資金繰りの調整が可能
決算期を変更することで、資金繰りの調整が可能です。特に、資金繰りが厳しい法人設立直後は決算期を変更することで、資金調達や運営の準備が整った状態で決算を迎えられ、資金管理がしやすくなります。
法人設立直後は、設備投資や人件費などの初期コストがかさむことが多く、資金が不足しやすい時期です。早い段階での決算を迎えると、支払いが集中し、資金繰りが一層厳しくなる可能性があります。
しかし、資金繰りに余裕が出る時期に決算期を設定することで、余裕を持った決算処理が可能です。
役員報酬の見直しのきっかけになる
決算期を変更することで、役員報酬見直しのきっかけにつながります。役員報酬の変更を行う際は、決算期末から3ヶ月以内に株主総会を開催し、決議が必要です。
法人の場合、同じ決算期内で役員報酬の増減を行うことは、利益調整を防ぐために原則として認められていません。しかし、もし早急に役員報酬の変更が必要な場合、決算期を変更することで、その機会を生み出せます。
例えば、企業が成長し、報酬を引き上げる必要がある場合や、逆に業績が悪化して報酬を減額する必要がある場合、決算期の調整を通じて、役員報酬の柔軟な見直しが可能です。
決算期変更のデメリット
決算期の変更にはメリットがある一方で、注意すべきデメリットもいくつかあります。
一時的に納税負担が増える
企業は決算期ごとに税務申告と納税が必要です。
通常、法人税や消費税は決算期に合わせて申告・納付が行われます。しかし、決算期の変更によってそのスケジュールがずれる可能性があります。
特に、決算期を短縮した場合、予想外のタイミングでの納税が必要です。例えば、決算期の延長を申請していない場合、決算期終了から2ヶ月以内に規定の納税(法人税、地方税、消費税)を完了させなくてはなりません。
この状態で決算期を変更した場合、事業年度の期間は1年未満に短縮されますが、納税期限そのものは同じです。そのため、決算期の変更によって納税期限の前倒しが起き、短期間にまとまった資金が必要となる場合があります。
この仕組みを逆に利用し、売上が集中する時期をはずして決算期を変更することで節税対策につながります。しかし、納税時期が早くなることに不安がある場合は、決算期の変更を慎重に検討することが重要です。
税額の計算が複雑になる
決算期の変更は、税額計算の複雑化をともないます。
日本では事業年度というと、1年での区切りが基本です。しかし決算期を変更した初年度は事業年度が1年未満となり、その期間に発生した納税額については月割計算に切り替わるため、計算がやや煩雑になります。
なお、月割計算が必要な項目は以下の通りです。
- 消費税
- 減価償却費
- 基準期間の課税売上高
- 住民税均等割の計算
- 事業税の軽減税率
- 地方自治体ごとの超過税率
- 中小企業の所得に対する軽減税率(年800万円の線引きが変わるため)
決算期変更の際は、税額計算の期間を考慮することで負担を最小限に抑えられます。
財務データの過去年度との比較や照会が難しくなる
決算期を変更すると、一部の年度が通常より短くなるため、重要なデータが分散してしまい、結果として、過去の税務や財務データとの比較が難しくなります。
決算期が固定されていれば、毎年の財務データを同じ期間で比較することができ、過去の業績とスムーズな照合が可能です。
決算期を変更する場合は長期的なデータ管理・照合の手間を見据えたうえでの検討が肝要です。
決算業務の効率化には会計ソフトの導入がおすすめ
会計ソフトを活用すると、日々の取引入力から決算書の作成までを自動化・簡略化できるため、業務の効率が飛躍的に向上します。
会計ソフトを選ぶ際には、以下の基準を参考にしてください。
- 操作性
- セキュリティ
- 拡張性
- アフターフォロー
- ランニングコスト
まず、操作性が簡単で誰でも使いやすいことが求められ、データの安全性を確保するためにセキュリティの高さも重要です。
また、企業の成長に伴ってシステムを拡張できる拡張性があるかどうかも重要なポイントとして挙げられます。
さらに、導入後のアフターフォローの充実度や、ランニングコストを含めたコストパフォーマンスについても検討が必要です。
具体的なおすすめの会計ソフトとしては、以下の3つが挙げられます。
▼会計ソフトの種類と特徴
会計ソフトの種類 | 特徴 |
---|---|
弥生会計 | 日本で長年の信頼を持つ会計ソフトで、操作がシンプルで初心者にも使いやすい |
freee会計 | クラウド型の会計ソフトで、リアルタイムでのデータ共有が可能であり、手軽に利用できる |
勘定奉行クラウド | 中小企業向けに特化したソフトであり、拡張性が高く、多様な業務に対応できる柔軟性がある |
以上のような、基準と選択肢を踏まえ、自社のニーズに合った会計ソフトを導入することで、決算業務の効率化を実現しましょう。
弥生会計
【弥生会計】
歴史が長く、経理初心者にも親しまれている会計ソフトです。クラウドの「弥生会計オンライン」と組み合わせることで、より多くの機能と連携できます。
「スマート取引取込」によって、店舗レジや領収書・レシート、オンライン請求書などのデータを瞬時にクラウド経由でアップロード可能です。また、取り込んだデータはAIが自動で仕訳してくれるため、日々の帳簿業務を大幅に効率化できます。
freee会計
【freee会計】
経理リソースに乏しい中小企業、個人事業主向けに開発された会計ソフトです。
AIによる自動仕訳はもちろんのこと、チャットによる問い合わせサービスも充実しているため、経理初心者でも安心して長く利用できます。
勘定奉行クラウド
【勘定奉行クラウド】
「株式会社オービックビジネスコンサルタント」が提供している会計ソフトです。
クラウド上ですべての機能が完結させられるため、明細の記録からデータの共有、保管までをシームレスに行えます。
また、顧問税理士のいる企業であれば通常のアカウントとは別に「専門家アカウント」が付与されるため、追加費用なしで税理士との情報共有が可能です。
まとめ|複雑な決算業務は会計業務で効率化
決算期は事業年度の区切りです。決算期は法人によって自由に決められますが、時期によっては税率計算が複雑化する可能性があります。繁忙期など、業務への負担を考慮した決算期の設定が必要です。
決算業務を効率化するためには、会計ソフトの導入が有効です。会計ソフトを使用することで、複雑な財務処理や帳簿管理が自動化され、ミスのリスクが軽減されます。例えば、弥生会計やfreee会計、勘定奉行などは、多くの企業が導入している信頼性の高いソフトです。これらの会計ソフトを活用することで、決算業務をスムーズに進められます。
よくある質問
決算期を変更することは可能ですか? |
はい、可能です。ただし、定款の変更や税務署への届出などの手続きが必要になります。です。 |
会計ソフトの導入は決算業務にどう役立ちますか? |
会計ソフトを導入することで、取引の自動記帳、税務書類の自動作成などが可能となり、決算業務を効率化できます。 |