法人の消費税計算にはさまざまなルールがあり、申告ミスが指摘された場合は法的なペナルティが課せられる可能性があります。そのため、状況に応じた正確な税額計算が必要です。とはいえ、経理の熟練スタッフのいない中小企業や法人化したばかりの方など、税額計算の複雑さに戸惑ってしまうこともあるかもしれません。
この記事では、法人の消費税計算の基本ルールやインボイスの定義、ミスのない申告方法を解説します。
なお、本記事で紹介している会計ソフトはアフィリエイト広告の出稿を受けています。
法人にとっての「消費税」とは?
法人化によって、消費税の計算方法や納税義務の基準が変わるため、事前にしっかりと理解しておくことが重要です。ここでは、消費税の基本的な仕組みと、法人と個人事業主における計算方法の違い、そして消費税が免除されるケースについて解説します。
消費税の基本的な仕組み
消費税は、商品やサービスの提供などに対して課される間接税です。事業者は、顧客から預かった消費税を納税する義務があります。消費税の計算方法は、一般消費者と事業者では異なります。
一般消費者の場合、消費税の計算式は「商品金額(単価)×税率」です。
一方、事業者の場合、消費税の計算は原則として「課税売上高 × 消費税率 – 課税仕入れ高 × 消費税率」という式で行います。つまり、売上時に預かった消費税から、仕入れ時に支払った消費税を差し引いた金額を納税する形が基本です。
法人の消費税計算方法は?
法人の消費税計算にはさまざまな方式があり、ルールに違反した場合はペナルティが課せられるため注意が必要です。
ここでは、法人特有の消費税の計算方法をパターン別に解説します。
消費税の計算方法には「一般課税」と「簡易課税」がある
税率計算は一見複雑ですが、基本を押さえておくことで申告業務をスムーズに進めることができます。
消費税の計算方法には大きく、「一般課税」と「簡易課税」があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、事業者側は自由に選択可能です。
一般課税制度
一般課税制度は、課税売上にかかる消費税額から、事業者が仕入れや経費で支払った消費税額(仕入税額控除)を差し引いて、納める消費税額を計算する方法です。
消費税の納付税額 = 課税売上にかかる消費税額 - 仕入れなどにかかる消費税額 |
簡易課税制度
簡易課税制度は、事業者の負担を軽減するための簡易的な方法です。課税売上にかかる消費税額に対して、業種ごとにあらかじめ決められた「みなし仕入率(業種によって異なる)」をかけ、仕入や経費にかかる消費税額を簡便に算出します。
納付する消費税額 = 課税売上にかかる消費税額 - (課税売上にかかる消費税額 × みなし仕入率) |
簡易課税を利用することで仕入や経費にかかる消費税額の詳細な計算を省略できるため、経理の手間を軽減可能です。ただし、実際に支払った仕入にかかる消費税額ではなく、あくまで「みなし」の額を使うため、実際の負担とずれが生じる可能性があります。
事業者は、一般課税と簡易課税のどちらかを選択可能です。
ただし簡易課税制度を適用するには、前事業年度の課税売上高が5000万円以下である必要があります。また、簡易課税を選択した場合、原則として2年間は制度を変更できないため注意が必要です。
標準税率と軽減税率
2019年(令和元年)以降、消費税は「標準税率」と「軽減税率」に区分されており、それぞれ区別して計算する必要があります。
まずは、課税売上にかかる消費税額の算出です。標準税率の場合、税込売上額に対して「7.8/110」を掛け、軽減税率の場合は「6.24/108」を掛けて計算します。同様に、仕入にかかる消費税額も標準税率と軽減税率で計算し、それらを差し引くことで消費税額が求められます。
消費税の会計処理
消費税の会計処理には大きく、「税抜経理方式」と「税込経理方式」があり、それぞれ税額の計算や仕分けが異なるため注意が必要です。
ここでは2つの方式の特徴を解説します。
税抜経理方式
税抜経理方式は、決算時に仮払消費税と仮受消費税を相殺します。さらに、納付する消費税額を「仮払消費税等」として仕訳する方法です。
▼仕入時の仕訳(例)
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 10,000円 | 買掛金 | 10,100円 |
仮払消費税等 | 100円 |
▼売上時の仕訳(例)
借方 | 貸方 | ||
現金 | 4,400円 | 売上 | 4,000円 |
仮受消費税等 | 400円 |
▼決算時の仕訳(例)
借方 | 貸方 | ||
仮受消費税等 | 1,000円 | 仮払消費税等 | 500円 |
未払消費税等 | 500円 |
税込経理方式
税込経理方式は、消費税額を決算時に確定させます。期中は消費税を売上や仕入に含めて計算を行い、決算時には「租税公課」として処理するのが特徴です。
▼仕入時の仕訳(例)
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 15,000円 | 買掛金 | 15,000円 |
▼売上時の仕訳(例)
借方 | 貸方 | ||
現金 | 5,000円 | 売上 | 5,000円 |
▼決算時の仕訳(例)
借方 | 貸方 | ||
租税公課 | 500円 | 未払消費税等 | 500円 |
消費税申告の流れ
消費税申告の基本的な流れは以下の通りです。
- 必要書類を揃える
- 税額計算
- 算出した税額を必要書類に記入
それぞれの手順を詳しく解説します。
必要書類を揃える
一般課税と簡易課税では消費税申告に必要な書類が異なります。
具体的な書類は以下の通りです。
一般課税の場合
消費税及び地方消費税の確定申告書(一般用)付表1-3:税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表付表2-3:課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表消費税の還付申告に関する明細書(還付の場合) |
簡易課税の場合
消費税及び地方消費税の確定申告書(簡易用)付表4-3 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表付表5-3 控除対象仕入税額等の計算表 |
上記の書類は税務署の窓口や国税庁ホームページから入手可能です。
また、国税庁ホームページ内の「確定申告書作成コーナー」から専用フォームに必要事項を記入し、用紙をプリントアウトすることでも申告できます。
税額計算
確定申告で最も大切なのが税額計算です。
必要書類が揃ったら、以下の手順で税額計算を行います。
1.課税標準額および消費税額の計算
税額計算の前にはあらかじめ、課税標準額の算出が必要です。課税標準額とは消費税計算の際に基礎となる金額のことで、日本では「課税資産の譲渡等の対価の額」と同額だと見なされます。
「課税資産の譲渡等の対価の額」の内訳は以下の通りです。
- 資産の譲渡
- 資産の貸付
- 役務の提供の対価として受け取る金額
また、輸入取引の場合は、「関税課税価格(CIF)+個別消費税+関税=課税標準」の式で算出できます。
2.控除対象仕入税額等の計算
おおよその税額が算出できたら、次は仕入や経費の控除です。ただ、給与や租税公課、非課税取引など、消費税が関係しない部分についてはあらかじめ差し引いて計算します。
簡易課税の場合は「みなし仕入率」を用いた計算が必要です。
3.納付(還付)税額の計算
ここまでに算出した「課税標準額」、「消費税額」、「控除対象仕入税額」をもとに最終的な税額を計算します。
算出した税額を必要書類に記入
必要な税額をすべて算出したら、仕上げは申告書への記入です。計算した税額をそれぞれの該当欄に転記します。
申告書は国税庁「消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等」から何枚でも自由に入手できます。また、簡易課税方式の場合は申告書の書式が異なるため、注意が必要です。
消費税申告のペナルティ
消費税申告に関して遅延や記載漏れが見られた場合、ペナルティの対象となるため注意が必要です。また、年間の消費税額が一定以上となった場合、超過分に応じた回数の中間申告が求められます。
ここではペナルティや中間申告を含め、消費税申告で特に注意すべきポイントを解説します。
一定額以上の申告には中間申告の義務がある
前年度の消費税納付額が合計48万円を超える場合、中間申告の義務が課されます。中間申告の場合地方消費税は除外され、国税のみが対象です。
消費税の納付額が48万円未満であっても、任意による中間申告を行うことができます。任意の場合、「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」を管轄の税務署に提出することで任意の中間申告が可能です。
中間申告が義務づけられる回数は消費税の納付額によって異なります。
消費税申告に遅延や漏れ、虚偽があると附帯税が課される
確定申告の義務があるにもかかわらず、申告を行わなかった場合はペナルティの対象です。
例えば、税務調査などで無申告が発覚すると「無申告加算税」が発生します。税率は納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分については20%の追徴課税の対象となります。ただし、自主的に修正申告を行った場合は、加算税は課されません。
申告した税額が実際の納税額よりも少なかった場合に課されるのが「過少申告加算税」です。申告後に税務調査などで修正が指摘された場合に適用されます。こちらも無申告加算税と同様、修正申告を行うことで回避可能です。
修正申告や納税が期限に間に合わなかった場合、遅れた日数に応じて「延滞税」が加算されます。延滞税は納付が遅れるほど高くなるため、期限内の申告・納税が重要です。
仕入や売上を意図的にごまかすなど、特に悪質な違反が見られた場合は「重加算税」が課されます。重加算税の税率は非常に高く、期限内申告であれば申告漏れの額に対して35%、期限後申告の場合は40%がかかります。
消費税申告にあたりおさえておきたいインボイスの基礎知識
消費税を正しく申告するうえでインボイスへの理解は必須です。ここでは、企業経理に必須のインボイス制度の基礎知識について解説します。
インボイス制度とは?
2023年10月から開始されたインボイス制度は、消費税の仕入税額控除の方法を大きく変える制度です。複数の税率が存在する中で、事業者間の取引における消費税額を正確に把握し、仕入税額控除を適正に行うために導入されました。
インボイス制度導入以前は、請求書さえあれば仕入税額控除を受けることができましたが、制度導入後は、「適格請求書発行事業者」の登録を受けた事業者が発行する「適格請求書(インボイス)」でなければ、仕入税額控除を受けることができなくなります。
そのため法人化した場合、特に課税事業者として事業を行う場合は、インボイス制度への対応が必須です。
- 適格請求書発行事業者の登録
- 請求書発行システムの整備
- 取引先への対応
取引先が免税事業者の場合、インボイスを発行することができません。そのため、取引先との関係性を見直し、場合によっては取引条件の変更などを検討する必要があります。
インボイス制度への対応は、事業者にとって大きな負担となる一方、税制面での公平性を担保するうえでは重要な制度です。
インボイス制度についてより詳しく知りたい方は、国税庁ホームページの「インボイスの手引き」をお読みください。
インボイス非対応では仕入額の控除が認められない
インボイス非対応の法人、または免税事業者との取引では、適格請求書が発行できないため、原則として仕入額控除が認められません。
取引先がインボイス非対応の場合、仕入税額を上乗せした分を代金として支払う必要があります。
インボイス対応のための業務負担を考慮し、現在は一定期間の経過措置が設けられています。
経過措置
・2023年(令和5年)10月1日~2026年(令和8年)9月30日:仕入税額相当額の80% ・2026年(令和8年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日:仕入税額相当額の50% |
また、インボイスには「少額特例」が設けられています。これにより、1万円未満の仕入税額については適格請求書を発行せずとも控除が可能です。
ただし、少額特例も2029年(令和11年)9月30日までと期限が設けられています。
法人で消費税が免除されないケース
原則として、課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税の納税が免除されます。
また、法人成り後の初年度と2年度も、基準期間における課税売上高が存在しないため、原則として消費税の申告は必要ありません。
しかし、以下のケースでは、これらの条件を満たしていても消費税が免除されない場合がありますので注意が必要です。
資本金が1,000万円を超えている
資本金が1,000万円を超える法人は、設立初年度であっても消費税の免税対象とはなりません。これは、資本金が大きい法人は、事業規模も大きく、将来的に課税売上高が1,000万円を超える可能性が高いとみなされるためです。
2期目以降の免除要件に該当していない
法人成り後の3期目以降は、以下の要件を満たさない限り、消費税の免税事業者ではなくなります。
- 基準期間における課税売上高が1,000万円以下であること
- 特定期間における課税売上高が1,000万円以下であること
「基準期間」と「特定期間」の定義は、「免税事業者のメリット」で説明した通りです。これらの要件を満たさない場合は、課税事業者となり、消費税の納税義務が生じます。
法人化を検討する際には、これらのケースも考慮し、将来の事業計画に基づいて、免税事業者としてスタートするか、課税事業者としてスタートするかを慎重に判断する必要があります。
消費税計算も簡単!おすすめ会計ソフト!
ここまでで解説した通り、消費税申告を含めた会計処理は非常に複雑です。インボイス制度への対応をはじめ、消費税計算を効率化するうえでは会計ソフトが役に立ちます。自社のニーズに合った会計ソフトを導入することは申告ミスを避けるためにも必須です。
ここでは、実務レベルで導入されているおすすめソフトを以下の4本に絞って御紹介します。
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- マネーフォワードクラウド会計
- freee会計
- 勘定奉行クラウド
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企業の規模に合わせた料金プランが用意されています。
まとめ|消費税の仕組みと計算方法を理解して会計を見やすく管理
確定申告をミスなく行い、財務状態を正しく把握するには消費税の正確な計算が必須です。ただ、消費税の計算にはさまざまな方式があり、なおかつ書式も複雑なため、経理業務に慣れていないうちは戸惑ってしまうかもしれません。
消費税計算の効率化には会計ソフトの導入がおすすめです。会計ソフトを導入することで消費税計算だけでなく仕訳やデータの共有など、経理業務全般の効率化につながります。
よくある質問
法人化後は免税事業者に戻れないのですか? |
いいえ、必ずしもそうではありません。 法人化後、最初の2年間は原則として消費税が免除されます。また、3期目以降も、課税売上高が1,000万円以下であれば、免税事業者を選択することができます。 ただし、資本金が1,000万円を超える場合は、初年度から課税事業者となる必要があります。 |
インボイス制度は、法人化した事業者にどのような影響がありますか? |
法人化した事業者、特に課税事業者となる場合は、インボイス制度への対応が必須となります。具体的には、適格請求書発行事業者の登録、請求書発行システムの整備、取引先への対応などが必要です。 インボイス制度への対応は、事業者にとって負担となる場合もありますが、適切に対応することで、消費税の仕入税額控除をスムーズに行い、事業の安定化を図ることができます。 |